新着情報
2024年11月14日
MD Anderson Cancer Center留学体験記 No. 5 マウスを用いた動物実験
MD Anderson Cancer CenterのRugang Labに留学して1年が経過しました。今回は動物実験です。留学して初めて動物実験を経験し、徐々に理解してきた段階なので正確でない部分があるかもしれませんがご容赦ください。
Rugang Labでは、免疫正常マウスとしてブラック6(C57BL/6)、免疫不全マウスとしてNSGマウス、遺伝子組み換えマウスの主に3種類を用います。動物実験は細胞実験ではわからない生体内での反応、特にがん治療において欠かせない「免疫反応」をみるために行うことが多いです。
免疫不全マウスはヒトがん細胞も生着しやすく、細胞実験で使用したヒト細胞株をそのまま使用して再現性を検証できます。また患者由来モデル(Patient Derived Xenograft)のホストや、免疫正常マウスと比較して免疫の関与をみる場合のコントロールとしても使用されます。その反面、免疫反応がないデメリットから、がん研究において免疫不全マウスだけでエビデンスを示すことは難しいです。例えば免疫チェックポイント阻害剤に関連した研究は、免疫不全マウスでは成立しません。
免疫正常マウスは、マウスがん細胞を注入・移植して体内にがん病変を作成します。Rugang Labでは、卵巣表面へのがん細胞注入(intra-bursal injection)によって卵巣にがん病変を作成します。これは皮下や腹腔内注入よりも卵巣がんの免疫・微小環境に近いといえます。ヒトがん細胞は勿論ですが、目的の遺伝子編集を行った後のマウスがん細胞においてもマウスの持つ免疫によって腫瘍が形成されないことがあります。私のプロジェクトでも随分と悩まされました。また薬剤によって特定の免疫因子のみを体内から枯渇させることも可能です。例えばCD8陽性T細胞を枯渇させることによって腫瘍縮小効果が消失した場合、元々みられていた腫瘍縮小効果はCD8陽性T細胞に大きく依存していると言えます。
遺伝子組み換えマウスはとても貴重で研究室で厳密に管理されています。Rugang Labでは、卵巣明細胞癌に多いARID1AとPIK3CA変異を持つマウスを保持しており、DNA組換え酵素Creが入ったウイルスを注入した場所(私たちは卵巣)にARID1AとPIK3CAの変異を持ったがんが発生します。自分の体内で発生したがんなので、より自然な免疫環境が得られます。
Rugang Labでは1つの動物実験ではエビデンスとして十分ではないと考えられていて、1つのプロジェクトに複数の動物実験が必須で16種類のマウスモデルを用いたものもあります。動物の尊い犠牲の上に研究が進んでいることを忘れず実験をしています。
写真は先日のハロウィンです。街の家々で飾り付けがされ、お菓子の準備があり子供が来るのを待ってくれていて、日本よりも子供ためのイベントと感じました。