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2025年12月05日
MD Anderson Cancer Center留学体験記 No. 12 藤内先生との留学Q&A 前編
MD Anderson Cancer Centerに留学しています、矢野光剛です。今回から2回に分けて医局員からのQ&Aという形で海外留学の情報を共有します。医局の後輩である藤内先生からいくつか質問をもらいました。藤内先生は、リサーチマインドの高い若手医師として大分大学を支えてくれています。
- なぜ海外留学をしようと思ったのか。言語や文化の違い、経済的負担、臨床のブランクなど多くの壁がある中で、それでも留学したいと考えた理由を聞きたい。
海外生活や最先端の研究への憧れから留学したいと思っていた
産婦人科医になって、若手・中堅の臨床医が研究に集中できる期間は、大学院と留学中しかないと気づきました。大学院で研究の基本を学んだ後に、世界の最先端研究に触れてみたい気持ちが強くなり留学へと繋がりました。
また現実的には、地域医療への貢献が求められる地方大学で臨床医が研究を続けていくには、他の研究者との違いを主張できる必要があります。最先端の研究を学ぶだけではなく、日本国内で臨床をしながらでは達成することが難しいような成果を得るために留学を決意しました。
- 留学の準備はどれくらい前から行ったか?
留学経験者の先輩である甲斐先生からCV(履歴書)の書き方を教えてもらったのが、留学する約1年前だった
2019年に大学院卒業してから留学への思いはありましたが、2020-2022年頃はコロナ禍もあって断念しました。2022年9月頃にはアメリカがコロナ規制を緩和し始めたので、準備を始めました。具体的には以下のようなスケジュールです。
13か月前:履歴書作成、推薦状のお願い、応募開始
12か月前:オンライン面接
10か月前:留学先を決定し、受入内諾書を得て留学助成金の応募開始
6カ月前:小林教授の就任後に留学の計画を伝える
1か月前:大分大学の臨床業務を終了
1週間前:家族全員で渡米、アメリカ生活スタート
振り返ると、大学院卒業後3年以内の方が博士研究員として受け入れられやすく、留学助成金の応募基準も満たしやすいです。留学が内定してから留学日までは1年ほどあった方が準備や助成金応募の時間が確保できてよいのかなと思いました。
あと家族全員で同時に渡米するよりは、まず単身で渡米して環境が整ってから家族を迎えた方がお互いに楽だったかもしれません。渡米直後に家族みんなが快適に過ごせる環境と仕事を始める準備を同時に行うのは、かなり忙しかったです。
- 留学先をどのように探したのか。
約20か所の研究室に雇用面接をしてくれないか直接メールを送ったが、面接をして受け入れ内諾をもらったのが、基礎研究室の2か所であった
大学院で学んだ病理学で、英語圏に留学したいと考え、病理学の教科書(WHO組織分類)の著者の研究室15-20か所に雇用面接をしてくれないかとメールを送りました。他にも大学院の研究で参考にした基礎研究論文(卵巣明細胞癌やARID1A)を出した研究室5か所ほどにも連絡しました。面接まで辿り着いたのは後者の基礎研究室2か所のみで、この時点で未経験の基礎研究で留学をすることを決意しました。
それぞれの研究室の主催者とオンラインで面接を受けました。30分でこれまでの自分の研究プレゼン、30分のフリートークでした。プレゼンは準備でなんとかなりますが、英語でのフリートークは会話になりませんでした。英語と基礎研究の未熟さは努力によって改善できると熱意を伝えて、双方から受け入れ内諾を頂きました。今の研究室に決めたのは、Rugang Zhang教授からの「Mitsutake、これまでの日本でのハードワークと論文数は素晴らしい!ただうちの研究室が投稿する雑誌は、Cancer ResearchとNature Communicationsが最低基準だ。ここに来れば最先端の研究を学べるぞ。」という言葉です。
新しい世界に踏み入れることを実感し、気持ちが高鳴りました。
- 留学に必要な業績の目安はあるのか。
医学研究者の多くは博士研究員(postdoctoral fellow)として留学しているので、博士号をもっているほうが門戸は広い
学位論文を含めた3-4編以上の英語論文をもっていれば、どこか受け入れてくれる可能性があると思います。ただ人気のある研究室ほど競争があるので、なるべく多くの英語論文(症例報告を含む)を持っていたほうが働きものであることがアピールできます。
受け入れるかどうかは、研究室次第です。所属する研究室では、以前に日本人が研究室に大きく貢献したことで、まじめに働く日本人を好意的に捉えて受け入れてくれました。
また譲れない希望の分野があれば、その中での需要と供給のバランスに影響されます。私の場合は病理学での留学は叶いませんでした。病理学という狭い分野の中では受け入れる留学生の数も多くないのでしょう。病理学に拘りすぎずに、基礎研究に範囲を広げたことで留学が実現しました。
- 留学経験が将来のキャリアパスにどう役立つと感じていますか?最近では留学どころか大学院も興味がない医師も増えていると聞きます。留学の意義とは?
留学の意義のひとつは、異国で生活して、働く機会が得られること
単純に楽しく、新しい価値観に触れることができます。日本人として、産婦人科医としての自分を見つめ直す機会にもなっている気がします。これは研究をずっと続けるわけではない人にとっても魅力的な経験だと思います。
日本で臨床医をしながらでは大きなプロジェクトや成果に関わることは難しいです。日本で10年間の睡眠時間を削って働いた成果よりも、留学中の2-3年が業績として上回る可能性があります。留学先で大きな成果を得ることは、帰国後の研究活動の助けとなります。
- 留学は家族と行くべきかどうか。
家族と行くべき(断言)
留学の楽しみの半分以上は、家族と異文化で生活できることです。子供が英語を話しながら様々な人種の友達と走り回る姿をみて、家族で来てよかったと実感します。デメリットは費用だけですが、それを上回る充実感があります。
単身に比して家族との方が、生活費が2-3倍にはなります。単身であれば狭い部屋でよいのが、子供がいると少なくとも2ベットルーム、子供の数によっては3ベットルームの部屋が必要です。危ない地区は本当に危ないので、いい学区であれば家賃相場も上がります。食費、学校、習い事、車、外食費、旅行など単身なら費用が抑えられるものも、家族だとそうはいきません。それら莫大な費用を捻出するために、給料をもらえる立場での留学や留学助成金の獲得をできるかが、医師・研究者としての腕の見せ所です。
次回はQ&Aの後編をお伝えします。
写真は、先日アメリカンフットボールNFLを見に行ってきました。ヒューストンのホームチームであるテキサンズが、終了間際に逆転勝利したことで会場は大熱狂でした。
アメリカでは休日の公園で親子がアメフトボールを使って遊んでいるのをよく目にしますし、優勝決定戦であるスーパーボウルは国民的イベントというほどに盛り上がります。







