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2025年05月23日

MD Anderson Cancer Center留学体験記 No. 9 細胞実験について

今回は細胞実験についてです。以前に動物実験(2024年11月、体験記No. 5)を話しましたが、細胞実験について話す決心がつきました。というのも、留学するまでは細胞実験の経験がなく、少しずつ覚えている道半ばにあります。細胞実験は、細胞培養から始まり、蛋白・DNA・RNAの抽出定量、RNA干渉(ノックダウン)、遺伝子編集(CRISPR)、免疫沈降、CAR-T 細胞実験など種類が多く、うまくお伝えする自信がありません。ただ、動物実験と双璧をなす研究手法なので共有します。

細胞実験において重要なのは、細胞株の選択とモデルの作成、増殖実験です。

世の中には数多くの細胞株がありますが、プロジェクトにあった細胞株を選ぶ必要があり、ここを間違えると以降の実験の価値が著しく下がります。例えばARID1A遺伝子研究の場合、卵巣明細胞癌や子宮体部類内膜癌などARID1A変異頻度が高いがんや組織型を選びます。さらにARID1A変異と共存することの多い遺伝子(PIK3CA)や共存しないことの多い遺伝子(TP53)を考慮して、実臨床で遭遇する腫瘍に近い細胞株を使用します。つまり卵巣明細胞癌由来でPIK3CA変異あり、TP53変異なしの細胞株などが候補となります。これは説明しやすい一例ですので、実際に私が行っているプロジェクトとは異なります。

次にモデルの作成です。ARID1A変異以外はすべて同じ遺伝子を持った細胞株の樹立を目指します。ARID1A変異型細胞を野生型に戻すことよりも、野生型細胞を変異型に誘導する方が容易と思われるので、下記のような遺伝子編集クローン株を作成します。その後、親株とクローン株の遺伝子や蛋白の変化を確認して作成終了です。

親株:ARID1A変異なしPIK3CA変異あり、TP53変異なしの卵巣明細胞癌

クローン株:ARID1A変異ありPIK3CA変異あり、TP53変異なしの卵巣明細胞癌

モデル作成後に重要なのは細胞増殖実験です。基礎研究論文をみると詳細な機能解析が行われていて、不慣れな我々臨床医はそれこそが基礎研究の核であると感じてしまいます。ただ、がん治療の基礎研究においては、がんの抑制が最大の目的であり、これが達成されなければ機能解析も意味がありません。上記のように作成した2つの細胞株が、目的としている標的・阻害剤への反応に差があるのか検証します。ここで差があればプロジェクトはスタートラインとなります。

自分の標的に臨床応用可能な阻害剤が存在するか否かもプロジェクトの価値を左右します。阻害剤が存在しない分子のノックアウトやノックダウンだけの研究は、臨床応用がすぐに実現しないという意味で研究の価値が高くありません。細胞増殖実験は細胞を植えて、阻害剤を投与して数日後に評価するという単純なものですが、単細胞化された細胞を均一に植えること、細胞数、阻害剤の濃度、治療期間などで結果が変わります。特に細胞数や細胞間の距離は細胞増殖への影響が大きいので、植え付けは慎重に行っています。

よい細胞モデルが樹立できれば、細胞増殖実験や機能解析は勿論、それをマウスに注射する動物実験へと繋げることもできます。また折をみて個別の細胞実験や動物実験についてお話していきます。写真は、先日グランドキャニオンにいってきた時のものです。遠くてしんどかったですが、素晴らしい景色でした。


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